ドイツの全ての地域協会で同じような運用をしているかどうかは分かりませんが、私が所属する地域協会では、すべてのレフェリーは、1シーズンで少なくとも3回のアセスメントを受けることができる、と言われています。シーズン前半戦で平均評価点の良かったレフェリーは、シーズン後半の間にさらに追加で2回、すなわちシーズン合計で5回のアセスメントを受け、担当リーグの昇格となるかどうかが決まります。
では、DFB のウェブサイトでも見ることができるアセスメント・レポートのフォーマットを、日本の審判アセスメント・レポートと比較をしながら見ていきましょう。
Bericht des Schiedrichter-Coaches/-Beobachters
まず始めに、大会名(リーグ名)と対戦チーム、試合日、試合結果、主審、副審、アセッサーの名前、評価点、試合の難易度を見ることができます。
試合時間の記述はありません。おそらく、年齢カテゴリー毎に試合時間は決まっており、リーグにより試合時間が変わるわけではない、すなわち試合時間は自明であるからだと思っています。東京都1部が90分ゲーム、東京都2部が80分ゲームというように、リーグにより試合時間が変わることはドイツではありません。例えば、1部(ブンデス・リーガ)から12部(クライス・リーガ)まで試合時間は90分、A カテゴリー(U-19) はどのリーグでも(何部リーグでも)90分で、B カテゴリー(U-17) は何部リーグでも80分です。
試合結果は、ハーフタイムまでのスコアと試合終了後のスコアを記述します。前半が 2:1、後半が 0:1 ならば、ハーフタイムまで(Halbzeit) 2:1、試合結果 (Ergebnis) 2:2、もしくは試合結果 (Ergebnis) 2:2 (2:1) という書き方がドイツでは普通です。
アセッサーの意味である „Beobachter“ は直訳すると「観察者」もしくは「監視者」ですが、ドイツ語のその語感とは異なり、„Schiedsrichter-Beobachter“(レフェリー・アセッサー)は、もちろん試合を観察、評価するだけではなく試合後にレフェリー・チームと一緒に試合を振り返って議論、分析を行い、またコーチとしての役割もあります。アセスメント・レポートのヘッダーにあるように、レフェリー・コーチ、レフェリー・アセッサーと言葉を使い分けている場合もあります。
評価点とそのスケールについての感覚は、驚くことに日本と殆ど同じです。7点代とは、そのリーグを担当するに相応しいパフォーマンスを示すことができなかった、ということであり、平均評価点が7点代になると担当リーグの降格となります。
地域協会の担当者によっては、追加のアセスメントを受けることができるレフェリーの平均評価点を発表する場合があります。2シーズン前は、6部担当で平均評価点 8.44 以上のレフェリーが5部昇格候補、7部担当で平均評価点 8.46 以上のレフェリーは6部昇格候補、と発表されましたが、昨シーズンは発表がありませんでした。昇格候補となるためには、8.4 以上は必ず、そして3回のアセスメントのうちいくつかは 8.5 もしくは 8.6 が必要ということでしょうし、シーズン前半戦で 2回、もしくは1回のみアセスメントを受けるレフェリーもいるので、それぞれが高得点である必要があります。
試合の難易度は、ドイツでは、普通、難しい、大変難しいの3段階。第1段階が「普通」か「やさしい」か、の違いはありますが、日本の審判アセスメント・レポートと同様に3段階です。
ちなみに、アセスメント・レポートは、2シーズン前までメールにて受け取っておりましたが、昨シーズンよりメールでのやりとりではなく、ウェブ上で閲覧するようになりました。例えて言いますと、Kick-off のシステム上でアセスメント・レポートを閲覧する、ということになります。
DFB 協会が使用するフォーマットと、地域協会が使用するフォーマットには少し違いがあります。地域協会管轄の試合では第四の審判員が割り当てられることが殆どないため、アセスメント・レポートに第四の審判員の項目がありません。代わりに、副審1に「ベンチ(監督、チーム役員、交代要員)に対する振る舞い」(ベンチ・コントロール)の評価項目があります。
ちなみにブンデスリーガ2部に第四の審判員が割り当てられたのは 2009/2010年シーズンから、ブンデスリーガ3部以下のリーグでは、入れ替え戦などを除き、第四の審判員は通常割り当てられておりません。
以降、アセスメント・レポートの項目は次の通りです。
ドイツのアセスメント・レポート
1. 試合の内容(どのような試合であったのかについての記述)
2. 競技規則の適用、競技規則の解釈、ゲームコントロール、戦術的振る舞い
3. 懲戒罰、懲戒罰の数
4. パーソナリティ、ボディーランゲージ、選手とチーム役員(ベンチ)のコントロール
5. 体力、ポジショニング
• 常に争点の近くにいるか
• 事象を見極めるために、良い角度、視野を保っていたか
• アウトオブプレーの時のポジション
• 対角線式審判法に基づきながらもフレキシブルな動きができているかどうか
• 必要な時にペナルティーエリア内にいるかどうか
6. 副審との協力
7. アセスメントのサマリーと改善のためのアドバイス
• 良かった点
• 調整(改善)すべき点
8. 副審1のアセスメント
• オフサイド
• 主審との協力
• プレーの再開のコントロール
• ポジショニングと動き
• ファウルサポート
• ベンチ(監督、チーム役員、交代要員)に対する振る舞い(地域協会アセスメント・レポートのみ)
9. 副審2のアセスメント
• オフサイド
• 主審との協力
• プレーの再開のコントロール
• ポジショニングと動き
• ファウルサポート
10. 第四の審判員のアセスメント(DFB アセスメント・レポートのみ)
• ホームチームの監督に対する振る舞い
• ホームチームのチーム役員に対する振る舞い
• ホームチームの交代要員と交代した選手に対する振る舞い
• ゲストチームの監督に対する振る舞い
• ゲストチームのチーム役員に対する振る舞い
• ゲストチームの交代要員と交代した選手に対する振る舞い
日独のアセスメントの比較
フォーマットの違いはあれ、試合後のフィードバックとレポートの内容を含めると、両者、評価される項目にはほとんど違いがないと考えています。ただ、日独でフォーマットの違いがあるということは、評価の力点、どのレベル(リーグ)からそれが求められるのかが異なるのかもしれません。しかしながら、ドイツでは日本よりどの評価項目がより評価されているのか、また逆について断定することは難しく、文化、考え方の違いだけではなく、競技会規則の違いもあり、単純には比較することができないと思っています。